無職814日目

バトル・イン・ジ・ウシミツ・アワー(Battle in the Ushimitsu Hour)

スゴイテック・ウォッチがその表示を「2020年6月22日」に切り替えた頃、ワン・ルーム・アパートの一室で1人のモータルが寝転がりながら書き物と読書をしていた。モータルの名はコイ・オウ。来年始めに実施される予定のセンタ試験1 に向けて勉学に励む無職である。カチグミへと至る道は険しいのだ。コイに無軌道大学生になる予定はなかったが、マケグミからの出発の身であるが故に、カチグミ大学生への道が険しくないわけではないと骨身にしみてわかっていた。

ワン・ルーム・アパートの外は自然に溢れ、ハカバめいた静寂を保っていた。時折デッカー・ビークルのサイレンが鳴り響き、サツバツとしたアトモスフィアを夜闇に漂わせたが、それもコイにとってはチャメシ・インシデントにすぎない。特に気にした風もなく読書に勤しんでいた。

スゴイテック・ウォッチの表示がウシミツ・アワーを指し示す前に読書を切り上げ、今日もまたセンタ試験に向けた勉強を滞りなく進めるために涼しいフートンに入って眠ろうとしたコイがふとワン・ルーム・アパートのトーフめいた白壁に目をやると、剣呑なアトモスフィアを纏った黒い影が佇んでいた。

「アイエエエ!」情けない声を上げつつコイは形状記憶メガネを掛け直し壁を凝視する。黒い影の正体は10cmにも及ぶようなバイオ・スパイダーであった。コワイ!見事なアンブッシュによりワン・ルーム・アパートの一室にエントリーしたこのバイオ・スパイダーにコイは見覚えがあった。実際数日前に友人に話をしていた存在2 そっくりである。

「ドコカラハイッコラー!?」ソウカイヤ・ヤクザ3 めいた言葉を吐きつつ一瞬で臨戦態勢を取るコイ。しかしその脳内は『アイエエエ!ナンデ?バイオスパイダーナンデ!?』と若干パニックの様相を呈していた。バイオ・スパイダーの侵入経路には皆目見当もつかず、それがコイの恐怖を倍増させた。コケシマートでの買い物を終え玄関の扉を開いた時か?それともワン・ルーム・アパートのベランダにテヌギー・タオル4 を干した時か?いずれにせよ排除せねば安眠はない。決断したコイの両手にはニンジャ・ソードめいた粘着テープ式フローリングクリーナー5 とナギナタめいたクイックルワイパーが握られていた。

コイは敬虔なブディストという訳ではなかったが、無益な殺生をなるだけ避けたいという意思はあった。その気であれば問答無用でアンタイ・インセクト・ミストガン6 をぶっ放すことだってできたはずである。コイはトーフめいた壁の反対側にある窓へとバイオ・スパイダーを誘導し、そこから逃すというプランを考えていた。実際バイオ・スパイダーはその方向へと壁面を移動していた。

バイオ・スパイダーが壁を移動するにつれ、コイは自らの体に鳥肌が立つのを感じた。その分コイとバイオ・スパイダーとの距離が縮まるためである。実際コワイ。音もなくトーフのように白い壁面で静止・移動を繰り返すバイオ・スパイダーの表情は窺い知れず、コイは鳥肌を立たせ、冷や汗を流した。

「確かに蜘蛛は益虫だ、俺は詳しいんだ」コイが一人呟く。時刻はウシミツ・アワーへと差し掛かろうとしていた。「だがこの大きさのバイオ・スパイダーとルーム・シェアする気はさらさら無い。第一家賃だって払ってくれないじゃないか。7 さっさとバイオフォレストに帰っていただこう」

コイはバイオ・スパイダーの一挙一動を見逃すまいと一定の距離を空けながら観察していた。トーフ壁面の縁に差し掛かったら一気に窓際に追い込み、窓を開けてベランダに追放する。それでオーテ・ツミだ。追放した後のことは日が昇ってからとにかくなんとかどうにかすればよい。

「イヤーッ!」叫び声8 と共にトーフ壁面に向かってコイがクイックルワイパーを一閃!タツジンめいたクイックルワイパー捌きに窓際の縁に追い込まれたバイオ・スパイダーが高速で前後左右に動く!

ゴウランガ!クイックルワイパーのリーチを活かしてバイオ・スパイダーを追い込みながら窓を開け放ち、カーテンをウシミツ・アワーのアトモスフィアの中はためかせた!しかしバイオ・スパイダーは恐れをなしたのかカサカサと音を立てて再び元のトーフ壁面へと戻ってしまった。ウカツ!

「ヌウーッ…」タイミングは完璧だったにも関わらずしくじった。その分睡眠時間は削られ、センタ試験は近づくのである。急いては事を仕損じる。基本的なコトワザだ。コイは気を取り直して今度は粘着テープ式フローリングクリーナーを利き手に構えた。このニンジャ・ソードめいた粘着テープ式フローリングクリーナーはスゴイギミックにより長さを調節可能である。コイは慣れた手つきで長さを最長に設定し、もう片方の手にはアンタイ・インセクト・ミストガンをいつでも放てるようスタンバイした。

再び壁の縁までやってきたバイオ・スパイダー。今度はしくじるまいと既に窓を開け放っている。粘着テープ式フローリングクリーナーを器用に操り羊飼いの如く窓際まで追い込んだコイは、再び攻撃を開始した!

「イヤーッ!」カサカサッ。「イヤーッ!」カサカサッ。「イヤーッ!」カサカサッ。「イヤーッ!」カサカサッ。「イヤーッ!」カサカサッ。

コイを嘲笑うかのようなバイオ・スパイダーの行動に、遂にコイの堪忍袋が爆発し、その内に眠るサツバツ・ソウルが目を覚ました。「蜘蛛斃すべし」最早無益な殺生を避けようとするモータルの姿などどこにもなかった。死神を三度欺くことはできない。平安時代の哲学剣士:ミヤモト・マサシのコトワザである。

コイが堪忍袋を爆発させた理由は他にもあった。当のバイオ・スパイダーがワン・ルーム・アパートのキッチン付近を動き回るだけとなってしまったのである。そこにはオーガニック野菜や合法オハギ9 といったコイの生活に欠かせない食品が格納された冷蔵庫があった。

再び家具や家電の影にアンブッシュされ、姿の見えない状態となるのも困る。コイはアンタイ・インセクト・ミストガンを構えてカサカサと動くバイオ・スパイダーに近づいた。サツバツ・ソウルに支配されたコイには恐怖など存在しない!

「イヤーッ!」狙いを定めてアンタイ・インセクト・ミストガンを撃つ!何と無慈悲な殺虫成分散布か!「イヤーッ!」一度ならず二度までも!「イヤーッ!」沢山撃つと実際当たりやすい。江戸時代のレベリオン・ハイクである!

トーフ壁面を這い回ったバイオ・スパイダーもアンタイ・インセクト・ミストガンの前には無力。そこがバイオ・スパイダー最期の地となった。

サツバツ・ソウルの支配から脱したコイは、爆発四散せずに残ったバイオ・スパイダーのカラカラの死骸10 をクイックルワイパーを使ってゴミ箱に叩き込んだ。その間バイオ・スパイダーに一度も手を触れることなく。11 ワザマエ!

スゴイテック・ウォッチがウシミツ・アワーの終わりを示しており、バイオ・スパイダーとの戦いも既に終わりを迎えていた。また今日も日が昇ったらコイはセンタ試験に向けて滞りなく勉学に励むのだ。バイオ・スパイダーとの戦いなど無かったかのように。ショッギョ・ムッジョ!

【バトル・イン・ジ・ウシミツ・アワー】終

参照したサイト

ダイハードテイルズ|note:読むオハギ(実際安全な)

ニンジャスレイヤー Wiki*:迷えるニュービー・ニンジャヘッズのためのコトダマ・データベース

◆出◆ニュービーのための忍殺文体ドージョー◆張◆|したらば掲示板:タツジン!

  1. 作品の表記に従っているが、2021年1月に実施予定であるのは「大学入学共通テスト」である []
  2. ゴミ捨て場を根城にしていた蜘蛛 []
  3. 作中に出てくるが、どうやら悪役らしい []
  4. バスタオル []
  5. 通称:コロコロ []
  6. 虫こないアース []
  7. 蜘蛛に家賃を払わせようとするという思想がマッポーめいている []
  8. 実際近所迷惑になるので叫んではいない []
  9. 現代日本には合法なオハギしかないはずである。この場合鯉王にとっての甘味(コケシマートに売ってる甘い何か)である []
  10. 生前のバイオ・スパイダーに比べるとその大きさは約3分の1程度であった []
  11. 手を触れなかったのは事実だが、実際は段ボールも使った []

鯉王

文系社会人を経ての無職。

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