無職1448日目
そのまま公共交通機関に飛び乗り、荷物に四苦八苦しながら一路引っ越し先を目指す。折しも雨は激しさを増していた。
親から引っ越し業者が来たという連絡を受けた。時刻は午後1時。
「お前2時に来るって言ったじゃねえかよおおお!!」
叫びたいがここは公共交通機関の中。無理である。
このままだと私が引っ越し先に引っ越し業者よりも早くにたどり着けない可能性もなくはない。急いで乗り換える。乗り換え時間3分?知ったこっちゃねえ!
取り敢えず引っ越し先の最寄駅に辿り着いた。文字にすると一段落の間に辿り着いたのかと思われそうだが、まあまあアドベンチャーだったしそこそこ十津川警部だった。最近電車の本数少なくね?
ここでも乗り換え時間はほぼ無いに等しい。やってきたバスに乗り込み、運転手に
鯉王「〇〇(鯉王の引っ越し先最寄りのバス停)は停まりますか?」
運転手「いや、これは行かないよ。〇〇に停まるのは二つ前のやつで、もう出発しかかってる」
鯉王「!?」
急いで降りて向かうも、目の前で発車してしまった。次のバスは30分後のはずである。さてどうしたものかと思っていたところ電話がかかってきた。どうやらAmaz◯nの配送業者らしい。
配送業者「今家の前におりまして!!どちらにいらっしゃいますか?」
鯉王「ちょっと出先であと30分くらいしないと帰れません」
配送業者「これから次のエリアの配送に向かうのでちょっと再配送は無理ですね!置き配とかできますか?」
鯉王「最近置引きの被害も頻発しているようなのでできれば対面で受け取りたいのですが…」
配送業者「そう言われましても、僕もこの時間帯はもう次のエリアに向かわないといけないわけでして…」
この電話の最中にもバスは何本も発車している。ならば一刻も早く辿り着くのが先だ。
鯉王「では、電気ものなので濡れないようにしておいてから置き配でお願いします」
電話を切り、来たバスに乗り込む。引っ越し先に一番近い停留所は、引っ越し先から徒歩20分程度のところであった。
雨の中降車し、大量の荷物と共に一路引っ越し先を目指す。雨は一段と激しさを増し、強風に煽られまくる。加えてパーカーの下は半袖である。クソ寒かったし指先の感覚はなかったし歯は常にガチガチと音を立てていた。しかも朝から殆ど何も食ってないのである。悪寒もしたしもう一歩も動きたくなかった。
「医者になるにはこれほどの労苦を背負わねばならんのか」
と割とマジで思ったが、直後に自分の中のまあまあ冷静な部分が
「いやまあ確かに金は稼がねばならんかったかもしれんけども荷物が多いのとちゃんと詰めてなかったのは自分が悪くね?」
と冷静なツッコミを入れてきたのでメンタルブレイクを起こさずに引っ越し先にたどり着けた。結果的に置き配となっていた電灯は盗まれずにあった。
取り敢えず持ってきた荷物を整頓し、濡れた傘をベランダに引っ掛け、電気は通っているものの電灯はついていないので鍵を受け取った日に持ってきていたHUEとフロアライト金具を点けた。やっぱHUEは無職の友。届いた電灯は台も脚立もないのでリビングの端に放置。
親から「辿り着き次第電話連絡してほしい」とLINEが入っていたので電話をかける。
引っ越し業者は1時間ほどで積み込みを完了し、15時すぎには到着するらしいと言われた。
また、敷布団に思いっきりカビが生えていたとのことだった。
荷物の移動が終わり次第、一度引っ越し元に戻ってきて残った荷物やゴミをどうにかしてから実家に戻るというプランで行くことになった。
既に空腹は限界を超えており、疲労はMAXに近かったが、取り敢えず水と電気は通っていたので支障はない。荷物を片付けていると引っ越し業者の方が来られたので、諸々の指示を出す。空っぽの部屋が次々と物で埋まっていく光景を見て、「次の引っ越しは死ぬほどものを減らしてえな」とか「机2個もいらんくね?」とかって考えていた。途中で養生テープらしき何かが私の足の裏に引っ付き、手で取ろうにもそこで私が手で取る仕草を見せたら最後引越し業者の人に妙に気を遣わせることになるかもしれないと思い、私は何食わぬ顔でボックスステップを踏んでいた。結果、養生テープはうまいこと私の足の裏から取れた。
早速年始の目標が達成できないところに追い込まれつつあった。いやでもこれからである。
業者の方が全ての荷物を下ろしたのを確認して見送ってから、引っ越し元に戻れる時間を調べる。最短でも2時間半くらいはかかりそうだったし、これから1時間くらいしないと公共交通機関は来ねえ。
取り敢えず天井の電灯を取り付けることにした。脚立はないので頑丈なコンテナで代用し、なんとか設置したけどこれ後で落下してきたらクソ怖いなとか考えたので下に運んでもらった布団の山を置いておくことにした。
急いでスーツケースを空にして空のスーツケースを持ってバス停に向かう。このままいけば18時過ぎには帰れるぞ。などと思っていたら、
バスが定刻通りに来ない。
雨足は強くなり、風が荒れ狂っていた。歯の根は合わないし、悪寒はずっとしている。パーカーは傘をさしていても雨に濡れまくっていた。
いつになったら来るんだよとか何とか考えていたら、定刻から10分くらい遅れてやってきた。これで乗ろうと思っていた公共交通機関には乗れなくなった。
そこから更に路線を再検索しつつ人の多い電車に揺られる。上手くいけば良い感じにバスに乗れるかもしれない。乗り換え時間は5分しかないし、そのバスに乗ったところで停留所から雨の中15分くらい歩く必要はあるが。ただ、それでも速く辿り着けるならそこに賭けるしかない。
駅に辿り着き、ダッシュでバスターミナルまで駆け降りる。果たして私を待ち受けていたのは、
雨の中バスを待つ長蛇の列だった。