学生生活358日目
3日後に留年する無職文系
今週は工場勤務ウィークである。
そんなわけで始発のバスに乗って近所の駅に向かい、駅のロータリーに停まっていたワゴン車に乗る。
日雇い労働を探していた折に見つけた、10時間耐久で1万円というバトルである。観光地T○mee出稼ぎ大作戦もまあ儲かるっちゃ儲かるが、こっちの日雇い耐久10時間は1番交通費がかからない。何故なら送迎があるから。
朝日を浴びて出発するワゴン車。眠気もないので、取り敢えず解剖学からキメようと本を読む。
そうこうするうちに辿り着いたのはまあまあな田舎だった。確かに自分の現在の根城もそれなりな田舎にあるが、それに輪をかけた田舎度合いである。田舎ランク的には、
今回の勤務地>実家近辺>無職文系時代の根城≧今の根城
といった感じである。
若干煙草臭い建物内に入り、簡単な説明を受け、作業着に着替える。荷物は最小限に、というのはどの工場も変わりない。
そうこうするうちに今日の作業場へと案内された。本日はまあまあデカめのガラス瓶に中蓋を取り付ける仕事を10時間ほどやるようだ。
工場のライン作業は「一定の」スピードで流れてくる未完成の製品に、様々な物を取り付けたりシールを貼ったり紙を折ったり何だりして完成品へと近づけていく、という一連の流れから成り立っている。細部は各工場やら製品やらによって異なるが、大体はそんな感じである。
この「一定の」スピードというのが厄介なもので、ベルトコンベア自体のスピードは一定だが、次々に置かれる未完成品の間隔によって難易度が変わり、また自分の前の工程を担当する人たちの作業スピードによっても自分の作業にかけられる時間が変わってくる。
自分が作業している間も製品は次々に流れて来て、また流れ去っていくので、ある程度のスピード感が求められ、不良品を出すとラインが止まるため、正確さも要求される。勿論自分の手の届く範囲が作業範囲となるため、あまり遠くの未完成品を前もって作業しておくことも、また作業できなかった未完成品に手を伸ばして作業することも基本的には出来ないのである。これも各工場のルールや各製品によって多少変わってくるが、大体こんな感じである。
自分の担当作業はラインの終わりがけに近いところであったので若干気は楽だ。隣(ラインの上流側)には若そうな高身長イケメン1 が立っていた。多分陽キャの類であろう。
男前陽キャ「単発バイトっすか?」
男前陽キャが話しかけてきたので、この工場は今日が初めてだと伝える。聞けば、向こうはこの4月から大学生になる、高校出たてのフレッシュボーイだった。
まあ私はこの4月から留年生だけどな!ガハハ!!
とは伝えない。単発日雇いバイトに入る時は素性はなるべく隠すのがポリシーだ。
男前陽キャ「俺、前にそのフタ取り付ける作業したんすけど、10時間連続でやってたら無意味に思えてきて何のためにやってるかわからなくなるんすよ」
人生における繰り返し作業の大半がそれでは?
と思ったが、鯉王もこれを相手に言えるほど高二病ではない。
男前陽キャ「俺、指定校推薦で早くに大学決まったから入学式のスーツ代稼ぐために日雇いでここに来てるんす」
めちゃくちゃ偉いな!!親の金で買って貰った車乗り回してイキってる医学生2 の5億倍偉いぞ!!
しかし工場のライン作業で隣に立たれたいタイプではなかった。
若いし仕方がない側面もあると思うし、工場勤務に慣れていないというのもあるのだろう。実際去年の2月ごろの私も微妙にそんな感じだったわけだし…
ただ、部品めっちゃ飛ばすし、ラインに追いつかなくなってくると私の作業可能範囲がガンガン減って行く感じのムーヴはちょっとやめてくれと思った。
正午ごろの2回目の休憩後には、彼は私の隣の持ち場から離れ、別の持ち場にて働くことになっていた。
2回目の休憩で完全食を食う。カップ麺やコンビニ飯のソルティーでオイリーな香り漂う休憩室で無心に完全食を貪る私はかなり異質な存在だったのかもしれない。
こっちは新参者で、所在なさげに完全食を食いながら3 休憩室の片隅にいると、しょんもりした若い女性がやってきた。そういえばこの人は同じライン作業場のもっと上流の方にいたぞ。
若い女性「確か同じ作業場の人でしたよね…?」
ここでウソついてもいいことは全くないので「そうだ」と伝える。煙草臭いところはあるが、耐久10時間で1万円、交通費も都会や観光地に出るよりはるかに安いという職場はこの田舎ではそうそう無い。なるべく人間関係は悪くしない方がいい、仮令単発バイトであったとしても。
若い女性「私、さっきのラインでいくつかミスをしてしまって、パニックになって泣いてしまって…」
中島みゆきの歌詞か?と内心で突っ込んでしまったのは置いておく。
そしてしょんもりの理由がわかった。確か説明書かなんかを入れる持ち場だったはずだ。
ライン作業の難度は上流ほど高い。が、最上流はそうでもない。自分のペースで流せるからだ。いやまあそれも全体の監督者にコントロールされるのだが。
若い女性「私の一つ前の方が割と無理なペースで瓶を流していたので、追いつかなくなってしまい…」
このいたたまれない空気をなんとかしようと「まあ人間失敗することあるし、今回のラインはペース速めだし、現場監督のババアも言い過ぎ感はあるよな」みたいな感じのことを言っておいた。あと関西のラインは関東よりも速いという根拠不明のトリビアも披露しておいた。
少し元気が出たようだった。
若い女性「お幾つくらいの方なんです?」
社会人大学生みたいなもん4 で、今30だよ、と答えておく。
若い女性「同じような年だと思ってました…」
そりゃ光栄だね、今まで老けて見られることばっかりだったからさ、と続ける。
若い女性「先輩のキャラ面白くて好きです」
それもまあよく言われるが曖昧に微笑んでおいた。先輩ったって新参者でしかない。
その後、その女性は偉い人的なおじさんに呼ばれ、去っていった。どうやら違うラインかなんかで作業することになったようだ。
しかしそうなると、「足の裏が痛すぎます」って言えば座ってできる作業に回されるんだろうか。
それはそうとして、再び作業に戻る。またひたすらに蓋をはめまくる。次に隣にいたのはナイスガイ(50代)だった。
流石に8時間を超えた頃から足裏の痛みのことしか考えられなくなっていたが、19:30過ぎごろに勤務が終わった。
実際聞いていた勤務時間は20:00だったので随分早い終わりだなと思ったが、日給は保証されるらしい。良心的である。
行きと同じワゴン車に乗り込むと、行きの人より若めの兄ちゃんが運転席に居た。
このアルバイト、難点があるとすれば高速道路に乗っての移動と立ち作業における足の痛さである。
事故らないことを自分のためにも会社のために5 も祈っていると、駅にたどり着いた。
既にヘロヘロだったが最寄り駅で降り、めちゃくちゃ唐揚げを食いたい気分だったが駅前のコンビニを素通りし(公共交通機関の時間の関係)、近所のスーパーで安売りになった惣菜の唐揚げを買って帰って貪り食った。
一日中意識高い完全食で満足できると思うなよ?
という謎にウザい感じになってしまったが、魂は満たされた。